箕面ビジターセンターモミジ樹勢回復処置

 箕面山の山麓には963haの広大な明治の森箕面国定公園が広がっています。この国定公園内に国際花と緑の博覧会の開催を記念してエキスポ‘90みのお記念の森という森林公園が整備されました。さらにこの森林公園内に箕面ビジターセンターと、もみじ広場があります。

 もみじ広場にはシンボルとなる雄大なもみじが生育しており、優美な姿を四季折々に彩って来ました。しかし、ある時を境にこのもみじに衰退が生じました。この衰退に対し、土壌改良などの処置が取られたのは1999年のこと。以後順調に回復したと見られたのですが2008年春、このもみじに突然大量の枯枝が発生しました。

 2008年の調査では、表層の根の消失・もみじ全体に枯枝が生じていること・キクイムシの発生・ウメノキゴケなどの地衣類の発生が確認されました。この突然の衰退に対し、当NPOおおさか緑と樹木の診断協会では土壌潅注・葉面散布・枯枝の除去などを2度に分けて行い、危惧された突然の枯死は回避されました。

枯死を防ぐための処置

枯死を防ぐための処置

 この時、不可解な事実として残るのが2007年には確認されていた表層の根系が、2008年6月の時点で消失しているという奇妙な事実でした。あるはずの根系が無い。たまたま試掘した地点が根の無い地点であった可能性も多少あるにしても、前年に根があった地点を試掘したにも関わらず、1年後に根が確認できない地点もあったため、やはり根は消失したと言わざるを得ませんでした。この奇妙な謎は残るものの、まずは突然の枯死を防ぐための処置を最優先しました。

 2009年、もみじは事無く成育するかに見られました。しかしこの年の冬、イノシシがもみじを守るための柵内にまで侵入し、もみじの周囲を徹底的に掘り起こすという事態がなんと2度発生します。そしてこのある意味で最良の時期に、またある意味で最悪の時期に大阪府みどり公社から、もみじの回復処置の依頼が正式に入りました。

 正式な処置を控え、もみじ広場のもみじに再度調査を行った際、2008年に突然発生したもみじの衰弱に前後して、箕面ビジターセンターでイノシシによる掘り返しが多発するようになったことが明らかになりました。この事実は2008年の調査で根が消失していたという奇妙な謎に、大きな光を与えました。

 イノシシの掘り返し=もみじの衰退という図式が成り立つのであれば、2008年にはイノシシに1度掘り返されて、もみじ枝の30%を失うような被害だったのですから、2度に渡り大きな掘り返しを受けた2010年は、春先になれば2008年をしのぐ被害が出ると予測されました。

 今処置を行えば、このイノシシによる多大な被害でさらに衰弱するとしても枯死することを食い止められるかもしれない。しかし来年度表れる衰退そのものを消し去ることは出来ないどころか、2009年よりも衰弱した姿となることを食い止めることは既に出来ない。そういう複雑な状況で回復処置の計画を進めることになりました。

全景写真

全景写真

このもみじが持っている潜在的な衰退の原因として

 ●もみじ広場を整備の際に複数回に渡り盛り土がなされているため、深植え状態となり、根の呼吸が阻害されていること。

 ●もみじの周囲はハイキングの来場者で踏みしめられて、根が伸長するにはとても硬いことが挙げられます。

 要約すれば、根の上につもった土をどうするか?根をどう伸ばすか?そしていかに活力を取り戻すのか?

 という回復の基本的な課題に沿うものの、一筋縄ではいかない問題もありました。

深植えになっている木は表土を取り除くことが一番

 しかし樹木の生命力の70%は表層の根で支えられており、衰弱した樹木にとって生命線となる表層の根まで土と一緒に掻きとってしまうことは、本件ではあまりに危険と判断しました。また1999年以降、このもみじが豊かな茂りを見せていたたことは、現在の深植え状況でも、表層に根が繁茂さえすれば、もみじ十分に回復可能なことを示しているという事実に注目しました。

根の回復には、まず土壌改良、そして養分の補給

 しかし土壌改良には土を掘るという作業がつき物であり、ただでさえ根が徹底的に傷めつけられたもみじの周囲をさらに掘り返して問題はないのか。不用意に土壌に養分を添加して、もみじの細根は肥料焼け(繊細な細根が肥料成分の強さで衰弱すること)を起こさないか。という問題が立ちふさがりました。

 まずイノシシにより切断された根を回復・伸長させるため土壌改良は必須であると判断しました。一方で、もみじに与える障害を最小にするためツボ穴式で土壌改良を施し、土壌潅注という根に直接活力剤を与える手法を選択し、濃度を低くした薬液を使用することで根の障害を最小限にとどめることにしました。土壌潅注は、春先に新しい葉の展開を補助するため、そして梅雨明けに夏季の高温期を越える活力を持たせるため行うこととして、計3度の処置を行う計画を進行しました。

イノシシ害 調査と処置

イノシシ害 調査と処置

 もみじの休眠期に土壌改良を行い、春が来ました。当初の予測通り、もみじが新葉を展開するにつれて浮びあがった枯枝の量は2008年を遥かに上回りました。この年の枯枝の出方も一年を通して徐々に現れるものではなく、春先に芽吹かないまま枯枝が大量に発生し、それ以後枯枝はぴたりと出ないという共通した状況でした。春先に枯枝があるということは、冬季に枯れの原因が生じ、休眠期にも関わらず、枯れ込んでいったことを示しています。どうやらやはりこのもみじの衰退はイノシシによりもたらせられたと見て間違いないようです。

2010年度 経日変化

2010年度 経日変化

 3年に及ぶ調査と処置を通し、このもみじを守るためにはイノシシからの防護と表層の根系の回復が優先されることがわかりました。

 またもみじの性質として、新枝・新葉が展開するのは春先のほんの1ヶ月ほどの期間だけであり、処置・回復の状況が明らかになるのは、その本当に短い期間の成長にしか表れないのです。本年度行った処置の成果は来年の春先、そして再来年の春先と、実に長い時間感覚のなかで確かめていかなければならいないということに、雄大な時間の中で生きているもみじの生命を感じさせられます。今年もまたイノシシが餌を求めて箕面の山を駆け巡る冬が来ました。自然の大きな営みの中で七転八倒しつつ、私達樹木医は出来うる限り樹木達に力添えをしたいと日々研鑽に努めています。