第5回勉強会は、地下鉄御堂筋線本町駅から徒歩5分のヴィアーレ大阪で開催されました。ビジネスホテルですが、会議室がウリと言う事で、我々の向学心も御堂筋の銀杏並木の如く、燃え始めました。参加者は8名で、4種類のレポートになんと!「かや焼き」と「榧風味」、「池田炭」の御八つ付き。これも嬉しいお勉強です。
  
 <草木錦葉集緒巻に書かれている教訓>  澤田先生
 塚本洋太郎氏、北村四郎氏により昭和52年に出版された本を、実際に持参して、説明して下さいました。
江戸時代の後期、旗本の水野忠暁(1767~1834)が、斑入り植物や珍しい植物を集め、およそ1万鉢を栽培していました。2人の画家、大岡と関根に約3千鉢の植物を写生してもらい、写生画に植物名と解説をつけて「草木錦葉集」として計1031図を掲載しました。付録である緒巻には「草木植替にあしき日の事」や「作松本来の図」など草木栽培の注意事項が98項目書かれています。そのなかの「元召遣ひたる者へ教訓」の一節を紹介すると・・・

・・・先年、予が所持せし立花より種々替り出たるを、家作土蔵を補理(コシラエル)頃、売払いし事あり。然るに其親木、如何してか痛(イタミ)葉萎(ハシオ)れたるを床の上に置、人参を煎じ・・・
・・・恩あれば仮令(タトエ)今、接木にして枯廻(イキカエル)とも親木へ刀刃(ヤエバ)をあつるに忍びず。痛は彼が天命と心得、切接(キリツギ)て助(タスク)べき代(カワリ)に人参を用いたり。
譬(タトエ)ば、君父の病に刀刃を充てて療(イヤ)すれば必(カナラズ)癒(イユ)る理ありとも、臣子として刀刃を当るは天理に背(ソムキ)て、なすに及びざるごとく恩の一字を顧みれば、草木といえども替所なしと答えけり、其木後、已(スデ)に枯けるゆえ仏壇に入れて今あり。

参加者からは、恩義を尊ぶ考え方がとても道徳的な気がする、当時はアサガオやサクラ等の品種改良が盛んだった、侍は色々な事に挑戦し草木図も武家のたしなみの一つだった等の時代背景を感じる発言や、高麗人参のアレロパシイー効果の有無等の話題が出され、盛り上がりました。
次回は、さらに栽培に関しての事項を説明して下さるそうです。ふりがなを付けながら、高校生の古文の授業の様に若々しい心で、読み解きたいと思います。

<急性毒性(LD50)の数値とADIの設定>  上尾先生
前回の「農薬の毒性試験と安全性確保について」に続き、農薬に関して第3回目のお話です。
(1)急性毒性(LD50) の数値と毒物及び劇物・普通物の分類
LD50値とは、一定数の動物の50%を死亡させる薬物の量を、その動物の体重1kg当たりの薬物量(㎎)で表したもので、半数致死薬量とも言います。
この値は、ラット、マウス、ウサギなどの動物を用いた急性毒性試験で求められます。LD50値に応じて、特定毒物、毒物、劇物、普通物に分類され、それぞれ皮下、経口、静脈、経皮、吸入といった投与経路ごとに薬物量が示されています。このうち毒物と劇物は「毒物及び劇物取締法」によって定められています。
(2)ADIの設定及び残留基準・安全使用基準の設定
 ADIとは、ヒトが食品中に含まれるある化学物質(農薬)を生涯にわたって毎日摂取しても健康影響が生じないと推定される一日当たりの摂取量であり、mg/kg体重/日で示され、一日摂取許容量とも言います。
慢性毒性試験や発がん性試験などの各種試験から、NOAEL即ち無毒性量(体重1kg当たりの1日摂取許容量 mg/kg/日)が求められます。ADIはNOAELに安全係数(1/100:日本)を乗じて算出されます。このADIのうち、80%は食物から摂取しても問題ありません。日本人の平均体重や、一日に食べる米や野菜等の作物の量から、残留基準即ち安全使用基準が定められます。この基準を守れば、問題なく食の安全は確保できるというものです。農薬の使用に当たっては、ポジティブリスト制度等を参考にして、基準を遵守する必要があります。

今回話題となった事として、ADIはFAOとWHOの合同評価会議で定められた世界共通の概念であるが、安全係数は国によって異なり(日本の1/100は世界的に見て厳しい値である)、輸入先各国のそれをどのように捉えていくか、という問題が挙げられました。TPP交渉参加についても、ポストハーベスト(収穫後の農薬散布)の問題と合わせて、食の安全が確保できるのか、不安なところです。
  
 <カヤの雑学>  真田先生
 カヤは、日本固有のイチイ科カヤ属の常緑針葉樹で高さ20m、周囲3mほどになる寿命の長い樹木で、日本では山形県、宮城県から屋久島まで自生しています。雌雄異株で、枝の様子はモミに似ていますが、葉の先端は鋭くとがり、にぎると痛いことでイヌガヤと見分けられます。カヤの語源は、蚊を追い払うための「蚊遣り」に由来すると言われます。
 カヤの材は、緻密で光沢があり、宮崎の日向榧が最高級。碁盤として珍重されています。また、種子は縄文時代からの食料で、榧実(ひじつ)として漢方に用いられたり、天ぷら油に利用されてきました。「かや焼き」は炒って砂糖を絡めたお菓子、「榧風味」はかた焼きせんべいで、三重県津市美杉村の特産品です。
 カヤは文学にも登場します。北原白秋の童謡集「花咲爺さん」には「かやの木山」があり、野口雨情は「榧の木」という詩を詠んでいます。
 カヤの変種、品種には次の7種類が知られています。
① チャボガヤ   潅木で高さは2mほど。主に日本海側の多雪地帯に分布する。
② マルミガヤ   種子が仮種皮をつけたままで、直径2.2㎜の小さく丸い実をつける。
③ ツナギガヤ   年々新しく出る枝に、通常の葉と混じって葉の裏面が表向きに出る。
④ コツブガヤ   種子の長さは、カヤは2.5㎝の楕円形であるのに対し、コツブガヤは1.5㎝以下で球形に近い。三重県と宮城県に1本づつ、計2本ある。
⑤ ヒダリマキガヤ 種子に左巻きの螺旋模様がある。兵庫県養父市の「建屋のヒダリマキガヤ」は、全国一の巨木。奈良市の「吐山のヒダリマキガヤ」は種子が大型で、長さが4㎝にもなる。
⑥ ハダカガヤ   カヤの種子には堅い殻があるが、ハダカガヤには堅い殻がなく、種皮の内側には渋皮のみがある。兵庫県篠山市の「日置のハダカガヤ」は世界唯一。
⑦ シブナシガヤ  胚乳に渋皮が無いか、あっても取れやすく、種子の殻を割ると中に白い胚乳が見られる。全国で3本が天然記念物の指定を受け、うち2本が三重県にある。

 写真を見ながら、現地視察の感想や、保護管理の状況を討論しました。雌雄異株であり、全国に数本あるいは1本しかないのに、なぜ結実可能なのか。変種、品種の実生はカヤの形質を示し、親の雌木の実とは異なるようだ、等の話題が出されました。貴重な変種、品種の巨木の将来と子孫について考えることが、我々に課せられた課題だと思いました。

最後に、カヤの実のレシピも紹介して下さいました。草木灰でしっかりあく抜きをするのがコツだそうです。ちなみに、今日のおやつの「かや焼き」は、かなりの歯ごたえと香ばしさ、なかなか美味しかったです。それから、最高級の碁盤は1000万円を超えるそうです・・・花言葉は、「努力」だとか・・・。

<韓国樹木探訪 その2>  浅川先生
前回の「韓国文化とマツ」に続き、2011年10月26日から28日の韓国樹木探訪報告です。
① 天然記念物第59号 ソウル 文廟の銀杏
2本のイチョウは、1519年に尹倬が植えたもので、西側のイチョウは樹高21m、胸高周囲7.3 m、東側のイチョウは戦争被害で幹が7つに割れましたが、それぞれの枝の主幹と同程度に育ちました。  
  枝張りが大きいので、支柱を施してあり、踏圧防止のための柵によって囲まれています。また、30箇所に通気管を設置してありました。腐朽箇所はウレタンできっちりと擬木化処理されており、枝の切断部分には防腐剤が塗られていました。
② 天然記念物第30号 龍門寺の銀杏
韓国で東洋一の銀杏として国民に親しまれているイチョウで、樹齢は1150年、樹高は65m、胸高周囲14mとされています。バスから降りて徒歩30分、山中の大きな寺にあります。案内板には、「新羅の最後の王である敬順王の世子が亡国の悲しみを抱いて金剛山(北朝鮮 クンガンサン)に行く途中植えた、幾多の戦乱の中でも生き残ったので朝鮮王朝第4代 世宗王が堂上職牒という官職を下賜した、或る時鋸を入れたときには枝から血が零れ落ち、落雷が轟いた、1907年日本軍と丁未義兵乱が起こったときもイチョウだけが焼けずに残った」などと記されています。
 周囲は木柵で囲まれ、登山者による踏圧防止処置がされています。一見、大きな枯死もないものの、往時の写真と比較するとやや衰弱しているようにも見られます。
③ 天然記念物第103号 俗離の正二品松
樹齢600~800年、樹高16.5m、胸高周囲5.2m、枝張東西南北9.1~10.3m(1962年指定時)ですが、現在は西側の下枝2本が枯れて約1/3の葉量を失い、円錐形が崩れています。
俗離の正二品松は最も品格の高い官職を持つ樹木で、1464年朝鮮王朝第7代世祖大王の御輿が通過する際に、マツ自らが枝を上げ、王の御輿を通したため、正二品の官位を与えられたとの言伝えがあります。
④ 天然記念物第104号 報恩の白松
 樹齢約200年、樹高11m、胸高周囲1.8m、枝張東西南北5.0~6.8m(1962年指定時)ですが、無残にも枯れており、今は屍が守護樹として部落を見守っています。遠望すると、落葉したケヤキのようですが、保護のためのワイヤーが今も残り、無念さに苛まれます。
⑤ 天然記念物第352号 俗離 書院離のマツ
 樹齢600~800年、樹高15m、地上70㎝で2つに分岐し、幹周3.3m、2.9mあり、枝張は東西23.8m、南北23.1m(1962年指定時)。
 守護神が宿る木として生き残り、下で分岐したため雌松と呼ばれ、正二品松と夫婦の間柄と言われ貞夫人(正二品の夫人に授けられた封爵)とも言われています。
この木にも、多数の支柱が施されています。冬の積雪は1mほどになるため、一部枝が折れた箇所も見られました。また、マツクイムシの被害は無いものの、タマバエの防除には神経を使っているそうです。
⑥ 報恩固有樹木 指定第6号 報恩のケヤキ
樹齢500年、樹高15m、胸高周囲4.0m。先祖たちの魂が宿る重要な遺産として残されています。田園地帯を背景とし、樹形が美しいため韓国テレビドラマの撮影地にもなりました。

韓民族の生命の木であり、守護神の木であるマツをはじめ、長寿樹として馴染み深いイチョウ、日常的に接することの多いケヤキ。韓国文化のなかでのその姿を、リアルタイムで目にすることができました。樹木を知るためには、その国の宗教、歴史文化も理解しなければなりません。アンテナを高くして、何事でも吸収する姿勢を持ちたいものです。
次回の報告も、楽しみです。

高須佳代

 

今回はパワーポイントを使用

今回はパワーポイントを使用