故(カレ)ここに天照大御神、見畏(ミカシコ)みて、天の石屋戸(アメのイハヤト)を開きてさし籠(コモ)りましき。 ここに高天の原(タカマのハラ)皆暗く、葦原中國(アシハラのナカクニ)悉(コトゴトク)に闇し。 中略
 天宇受賣命(アメノウズメノミコト)、天の香山(アメのカグヤマ)の天の日影(アメのヒカゲ=ヒカゲノカヅラ)を手次(タスキ)に繫(カ)けて、天の眞折(マサキ=ツルマサキ)を鬘(カヅラ)として、天の香山の小竹葉(ササバ)を手葉(タグサ=手に持ち加減のよいほどに束ねる)に結(ユ)ひて、天の石屋戸に槽伏(ウケフ)せて蹈み轟(フミトドロ)こし、神懸(カミガカ)りして、胸乳(ムナチ)をかき出で裳緒(モヒモ)を陰(ホト)に押し垂れき。ここに高天の原動(トヨ)みて、八百萬の神共に咲ひき。 後略
岩波文庫 古事記 倉野憲司校注 1991・6

この文章は、古事記に書かれている天の岩屋戸の小竹葉の話ですが、日本書紀には小竹葉が出てきません。

天鈿女命(アマノウズメノミコト)、則ち手に茅纏(チマキ)の矟(ホコ)を持ち、天石窟戸(アマノイハヤト)の前に立たして、巧(タクミ)に作俳優(ワザヲサ)す。亦天香山の真坂樹(マサカキ)を以て鬘(カツラ)にし、蘿(ヒカゲ)を手鏹(タスキ)にして火処焼き(ホトコロヤ=かがり火を焚き)覆槽(ウケ)置(フ)せ、顕神明之憑談(カムガカリ)す。 後略
岩波文庫 日本書紀(一) 坂本太郎 家永三郎 井上光貞 大野晋  1994・9

文中に出てくる茅纏の茅とは、イネ科の多年草で、春に円錐形の銀色の花穂が咲き、茅の輪夏越の祓(チノワナゴシノハラエ)に使う。 また矟とは茅を巻いた矛(ホコ)のことで、男性器の象徴で巧な作俳優すときに神々を笑わす何かをしたのだろう。 神々がクスクス笑うのでは危機は去らない。 全員が口を割り開いて大笑いすることが、妖気渦巻く暗黒の中で必要だったといわれています。
岩波新書 古事記の読み方―八百万の神の物語―坂本勝 2003・11

澤田 清

 

天の岩屋戸の小竹

天の岩屋戸の小竹