私の仕事は造園業である。名前はN造園。例年、正月明けは我々にとって暇な時期でありのんびりしていることが多いのだが、ありがたいことについ先日庭の手入れの依頼を受けた。そのお宅は松が17本もある大きなお庭なので、昨年で引退した元親方にも作業を手伝ってもらうことにした。現場はしばらく手入れが滞っているらしく、草がびっしりはびこっていた。しかも、そのほとんどが「アレチヌスビトハギ」である。

 

 

 この草は小さい豆のような実をつけ、それにかぎ状の毛がびっしり生えていて衣服などに非常によくくっつくという特徴があり、うっかりこの草むらに足を踏み入れると大変なことになってしまう。マメ科の雑草で、漢字で書くと「荒れ地盗人萩」となる。荒れ地に生育し、実の形が「足袋を履いて抜き足、差し足で歩く盗人の足跡」に似ていて、花が萩に似ていることが名前の由来らしい。一般的に「ひっつき虫」と呼ばれていて、皆さんもおなじみだと思う。

 

 

 まずは、この草刈からスタートだ。元親方と二人で手分けして刈ることとなった。しかし、作業服のままだと「ひっつき虫」がいっぱいくっつくので、私は全身レインコートで防護して作業を行った。これならほとんどくっつかないで済むのである。
この日はよく晴れていて少し汗ばむような陽気の中、やっとの思いで私の担当した範囲を刈り終えて戻ると、そこには全身「ひっつき虫」まみれの元親方がいた。暑かったからなのか、レインコートを着ずに作業をしたらしいが、見事に「ひっつき虫」の餌食になっていた。
「さすがだ・・・。」

 

 

 私は元親方のたくましさに驚くと同時に、感動さえ覚えた。私には、あの姿になることを覚悟の上で「アレチヌスビトハギ」群に突っ込んでいく勇気はない。
その日の帰り、元親方はトラックの助手席で「ちきしょう・・・。」とつぶやきながら到着まで1時間半もの間、ずっと「ひっつき虫」を取り除く作業に没頭していた・・・。

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